大沢在昌の「黒石」です。新宿鮫シリーズの第十二作です。期待値にまでは届かなかったのですが、楽しめました。
リーダーを決めずに活動する地下ネットワーク「金石」の幹部、高川が警視庁公安に保護を求めてきた。正体不明の幹部“徐福”が、謎の殺人者“黒石”を使い、「金石」の支配を進めていると怯えていた。「金石」と闘ってきた新宿署生活安全課の刑事・鮫島は、公安の矢崎の依頼で高川と会う。その数日後に千葉県で“徐福”に反発した幹部と思しき男の、頭を潰された遺体が発見された。過去十年間の“黒石”と類似した手口の未解決殺人事件を検討した鮫島らは、知られざる大量殺人の可能性に戦慄した―。どこまでも不気味な異形の殺人者“黒石”と、反抗する者への殺人指令を出し続ける“徐福”の秘匿されてきた犯罪と闘う鮫島。“新宿鮫”シリーズ最高の緊迫感で迫る最新第十二作!
中国残留孤児二世・三世の相互扶助を目的として生まれ、やがて巨大な地下ネットワークへと発展した「金石(ジンシ)」。その幹部の一人・徐福が、謎の殺し屋「黒石(ヘイシ)」を使い、組織を自らの支配下に置こうと動き始めます。
徐福に反発する「金石」の幹部・高川は、命の危険を感じて公安に保護を求め、鮫島も事件の捜査に加わることになります。しかし、「金石」はネットワーク型組織ゆえに実態がつかめず、徐福の正体も謎のまま。その間にも、「黒石」の犯行を思わせる残忍な殺人事件が次々と発生していきます。果たして鮫島は、正体不明の徐福と最凶の殺し屋・黒石を追い詰めることができるのか――というストーリーです。
今回の作品で最も印象に残るのは、やはり「黒石」という異様な殺人者の存在です。本人は自らを悪人ではなく“英雄”だと信じ込んでおり、その歪んだ価値観が物語全体に不気味な緊張感を与えています。凶暴でありながら衝動的ではなく、標的の行動を徹底的に調べ上げ、綿密な準備を重ねてから犯行に及ぶタイプです。さらに、殺害方法にも独自の美学を持っているため、その足取りをつかむことは容易ではありません。
派手なアクションで押し切る作品ではなく、鮫島が膨大な情報を一つひとつ積み上げ、少しずつ黒石と徐福の輪郭を浮かび上がらせていく流れです。地道な捜査の積み重ねが終盤の緊迫感へとつながっていく展開は、さすが新宿鮫シリーズだと感じました。
続きで印象に残った場面を。( ´∀`)つ

読書日記ランキング
鮫島と金石のンバーである「田」との会話です。深い内容の会話は新宿鮫の魅力ですね。
こういう会話が新宿鮫の魅力なんですわ。(*´∇`*)
徐福が「金石」の掌握を求めている理由は何かと鮫島が考えた時の場面です。鮫島のこういう内面描写も好きなんですね。
「その通リです。なので、私が考える犯人は、金石に関して総合的な知識をもつ人間です。連絡網や各人の職業について知る立場にある。にもかかわらずこれまでリーダーの座につこうとは考えてはいなかった。何かの理由が生まれ、金石を再編し自分の傘下におこうと考えたのではないでしょうか。ちなみに、そういうタイプの人間と、特定の凶器にこだわる殺人犯は、人間像としては合致しません。したがって、リーダーの座につこうとしている者と殺人犯は別人だと思われます」
田は無言で鮫島の話を聞いていたが、いった。
「そいつは本当にあんたひとりが考えたことか?」
「そうでなければ何だと?」
田は息を吐いた。
「あんたみたいな刑事がいるとはな。極道にひどく嫌われていると聞いていたが、こうして会ってみて、何の話だと思った。極道が恐がるような迫力がどこにある、とな。だがわかった。嫌われているのは、あんたのその考え方だ」
「考え方?」
「お巡りにはお巡りの考え方、極道には極道の考え方って奴がある。そいつは似ていても、ちがうところがあるし、金石のメンバーならメンバーで、極道やギャングともちがう。あんたはそれを十杷ひとからげで考えず、その人間のものの考え方で動きを予測する。そんな奴が刑事をやっていたら、いつか先手をとられるだろう。俺は嫌だね。あんたのような刑事に追いかけられたくない」
鮫島は首をふった。
「ほめられているようにも聞こえます」
「ほめちゃいない。あんたみたいな奴は、たとえお巡りでも殺す他ない、ということだ」
こういう会話が新宿鮫の魅力なんですわ。(*´∇`*)
徐福が「金石」の掌握を求めている理由は何かと鮫島が考えた時の場面です。鮫島のこういう内面描写も好きなんですね。
ーー中国共産党の研究を徐福は長くやっていて、そこから考えついたらしい
という田の言葉が記憶に残っている。
ーー奴は実験をしているのだと思う
ーー実験?何の実験です
ーー組織というのは、外敵に対し高い戦闘力をもったときに強度の頂点に達するが、その瞬間から内部崩壊が始まる、と奴はいうんだ。どんな組織も、組織であろうとすることで不協和音からは逃れられない。組織のつながりが脆弱で戦闘力の低いあいだは、不満や不平は、組織をより強固な形へと促す原動力になる。が、ありようが最強度に達したときは、崩壊へと進むことになる。自然な崩壊は不可避だが、人工的な崩壊を起こすことで、別の組織へと変容させられる、というんだ
そこまで思い返し、鮫島ははっとした。
そのときは、金石が自然な内部崩壊へ至るのを防ぐために徐福が組織のピラミッド化を考えているのだと受けとめた。
が、ネットワークである今の金石に高い戦闘力はない。徐福が掌握し組織がピラミッド化したとき初めて、戦闘力を得る。
警察や暴力団が高い戦闘力をもつのも、上意下達の組織構造によるところが大きい。
金石の内部崩壊は、今起きているのではなく、徐福が組織を完全掌握したときに始まるのだ。
つまり徐福は金石を崩壊に導こうとしている。



















コメント